学生×教員 座談会

法律学とは何か、政治学とは何か

これまでのQ&Aで、法律学や政治学に興味をもっていただけたでしょうか。
ここでは、みなさんに、法学部での学びを具体的に知ってもらうために、龍谷大学法学部で勉強している、もしかしたらみなさんの先輩になるかもしれない人に、法律学や政治学について持っている疑問を、法学部の先生方に質問してもらいました。

法律学とは何か

河村尚志先生(商法) 本日は、お集まりいただきまして、ありがとうございます。それでは、さっそく、法学部の先生方に、法律学とは何か、政治学とは何かというテーマで、「率直な質問をぶつける」座談会を始めさせていただきます。学生さんは、高校生に戻ったつもりで(?)、質問してくださいね。まずは、法律学についての質問をお願いします。

六法律は全部でどれくらいあるんですか。
米田朱里さん(3年生)

畠山亮先生(日本法制史) 六法とは、憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の六つの主要な法典のことをいいますが、よく耳にする「六法全書」などという場合は、それにとどまらない主要法令のことを指します。これをすべて暗記するのは相当の努力が必要で、普通の大学生にはまず無理でしょう。しかしそもそも法学を勉強する際に最も重要なことは、法令を暗記することではありません。もちろん、最低限のことは覚える必要がありますが、これはどの分野でも同じことだと思います。法学を学ぶ際に一番の目標とすべきことは、「リーガルマインド」と呼ばれる、法的な考え方を身につけることです。そのためには、条文を覚えることにこだわるのではなく、法の理念・趣旨・背景などをきちんと理解して、法の世界全体を体系的・合理的にとらえ、それを踏まえて自分の頭で多面的に考えることこそが求められるのです。
米田朱里さん(3年生)

六法は全部暗記しなければいけないのですか。
米田さん

牛尾洋也先生(民法) 現在、日本で効力を持っている法律の数は、約1,800弱です(総務省行政管理局平成20年4月4日現在の法令データ(平成20年4月4日までの官報掲載法令)より)。国会は、日々、これらの法律を作りあるいは廃止するなどの活動を行っており、法律はそのたびに増減を繰り返しています。ここでいう「法律」とは、「日本国憲法」を除いて、原則的に、「全国民を代表する選挙された議員」からなる国の唯一の立法機関としての「国会」の両院で可決され成立するものをいいます。要するに、私たち有権者の意思が間接的に国家機関を通じて表現されて法律となり、国家はこの法律に従ってのみ、活動できるという仕組みになっています。ところで、「法」と「法律」は厳密には違う意味です。「法」とは、たとえば、人は、身分に関係なく、生まれながら平等に権利や義務を持つことができ、あるいは、他の人の生命や身体、財産を無断で傷つけてはいけない、というように、「正義」に合致した人や社会の自然なあり方の「法則」(「自然法」)を意味し、「法律」の基礎には「法」があり、法律がなくても、場合によって「法」が直接機能する場面が予定されています(慣習法、条理など)。

法律学とは何か2

法学の面白さはどこにあると感じますか。
松本夕香さん(4年生)

畠山亮先生 まずは、社会で話題になっている問題や自分の興味のある事柄について、「法」という視点から迫ることで、ことの本質がより明確に分かることが挙げられます。法的な要素は、実は日常生活のいろいろなところにあるものですから、法的な考え方を身につけることによって、世界の見え方が大きく変わることになるでしょう。次に、これは「難しさ」でもあるのですが、答えが最初から1つに決まっているわけではなく、切り口や考え方によって変わることがある、ということも挙げられます。答えを導き出す過程では、本を読んだりするだけでなく、例えば先生と話したり、学生同士で議論したりすることも重要な意味を持ち、そうした人との関わりの中で、自分一人では思いつかなかった切り口や考え方が得られることもあるのです。そのような中から、最終的には、社会の様々な問題について、自分なりの視点で「考える」ことができるようになることが、一番の「面白さ」だと思います。

松本夕香さん(4年生)

法学の研究とは具体的にどのようなことを行うのですか。松本さん

畠山先生(日本法制史)・牛尾洋也先生(民法)

畠山先生 法学の研究といえば、法律や裁判が中心にあって、難しい、堅苦しいものに感じるかもしれませんが、実はその素材は身近なものであることが少なくありません。例えば、靖国神社参拝・振り込め詐欺・代理母の問題などのように新聞やニュースでよく目にすることから、交通事故・物の売買・アルバイトといったように普段の生活の中にあることまで、広く法学研究の対象になるのです。そうして見つけた素材について、それに関連する法律や過去の裁判の例(判例)を調べたり、専門書や論文を読んだり、みんなで議論をしたりしながら、法的な視点から分析して行くのが、法学研究の基本になります。また、事例についての解釈にとどまらず、問題の背景にある歴史・思想・哲学など、自分の関心や熱意によって内容や目標を設定し、様々な面について特に深く掘り下げて行くことも法学研究の大きな柱といえます。

法学を学ぶにあたって併せて勉強した方がよい学問はありますか。松本さん

畠山先生 第1に、法学という学問は決して独立した分野ではなく、他の分野と多くのところで関連しています。例えば、憲法9条について考える場合、どうしても日本の歴史についての知識が必要になりますし、ドイツの法について勉強しようと思えば、当然ドイツ語力が必要になります。このように、歴史・語学・思想・哲学・宗教・経済・社会学など、隣接する分野について、自分の関心に応じて、必要な素養を得るために積極的に勉強して行くことがとても大事になります。第2に、きちんとしたリーガルマインドを身につけるためには、できるだけ豊富な知識と広い視野を持つことが必要です。例えば大学では、特に1・2年生のときに、いわゆる「教養科目」なども学ぶ機会がありますが、一見すると法学とは直接関係しないように感じられがちな科目でも、この点でとても大事な意味を持つので、いろいろな学問を幅広く勉強してもらいたいと思います。

法律学とは何か3

弁護士はどういう仕事をしているのですか米田さん

牛尾先生 まず、弁護士も検察官も裁判官も、同じ司法試験に合格し同じ司法修習という研修を受けた法律の専門家(法曹一元)ですが、検察官・裁判官が国家公務員として権力機関の一翼を担うのに対して、弁護士は、弁護士会という権力から独立した自治的な組織に所属し、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする法律専門家をいいます。

弁護士の仕事としては、お金や家の貸し借り、家や物の売買、交通事故や欠陥住宅、離婚や相続、会社間の契約上のトラブルといった民事・商事事件や、労働、行政事件などについて、本人の依頼によって、法律相談から裁判所での訴訟活動(弁護活動)まで行い、あるいは罪を犯した疑いのある者(被疑者)や起訴された者(被告人)の捜査や裁判などの刑事事件に関し、えん罪などのない適切かつ正当な判断がなされるように弁護活動を行うことです。裁判以外にも、紛争の予防や人権擁護活動、立法に関する活動、会社などの組織内での法的活動も行っています。

座談会

弁護士になるには絶対に法科大学院にいかなければならないんですか。米田さん

畠山先生 弁護士をはじめとする法曹になるためには、従来、「司法試験」(いわゆる「旧司法試験」)に合格する必要がありました。しかし近年、法科大学院が設置され、これを経ていわゆる「新司法試験」を受験するという方式が創設されました。現在は経過措置ということで、両方式が併存していますが、近い将来、前者は廃止され、後者の方式が主流となることになっているので、これから弁護士を目指す場合は、法科大学院に入るのが一般的な方法ということになります。法科大学院は、大学院といっても、研究を目的とする大学院(=法学研究科)とは違って、法曹になることを直接の目的にしたもので、これを2年または3年で修了することで初めて、新司法試験の受験資格が与えられます。したがって、法科大学院に入ることはもちろんゴールではないわけで、ここに入るまでに、そして入ってから、どういう勉強をするのか、といったことが何より大事になるのです。

裁判をするのにはどれくらいお金がかかるのですか。阿部さん

畠山先生 裁判にかかる費用としては、裁判のための費用と弁護士費用の二つがあります。前者は、裁判所に支払う費用で、主として訴状に張る収入印紙代ですが、例えば、100万円未満では1%、100万円から500万円までは0.5%など、請求する金額によってその割合が決められています。むしろ後者が費用としては中心となります。

弁護士費用は、交通費などの「実費」と2004年から自由化された「弁護士報酬」に分かれます。弁護士報酬としては、結果にかかわらず事件を着手する際に支払うべき「着手金」と、事件の成功の程度に応じて受ける「報酬金」、その他、時間に応じて支払う「時間制報酬」などがあります。訴訟前の段階か訴訟の段階か、金銭を獲得する訴訟か支払を拒絶する訴訟か、またその金額により異なりますが、例えば、法律相談の場合、1時間で1万円、連帯保証や利息支払の拒絶、金銭の貸し借りをめぐる争いの場合、それぞれ「着手金」は10~20万円、「報酬金」は20~30万円程度、売買の代金を請求する場合などでは、「着手金」は50~100万円、「報酬金」は150~200万円などが平均となっています(「アンケート結果に基づく市民のための弁護士報酬の目安」(日本弁護士連合会)に参照)。

いずれにせよ、弁護士には報酬を明示する義務がありますので、予め尋ねることができます。

なお、裁判を受ける権利があることから、裁判費用の支払いが困難な場合には、一定の費用の立て替えを行う「民事法律扶助」という仕組みもあります。

遺産のことについて知りたいのですが、何法を勉強したらいいのですか。阿部さん

牛尾先生 「遺産」とは、死者が生存中に所有していた有形・無形の財産のことです。文化遺産や世界遺産などの言葉もありますが、個人が残した財産について取り上げましょう。

遺産(相続財産)は、土地や建物、有価証券や預貯金などプラス財産のほか、借金やその他の義務などのマイナス財産をも意味します。これらの財産は、帰属すべき主体、つまり誰のものかを確定し、分割されて、相続人の個人財産になるか、あるいは消滅させられるか、国家に帰属させられるか決定しなければなりません。みなさんが高校までに習った法定相続や相続分もその一つです。これらを規定するのは、民法のなかの相続編(民法第5編882~1044条)が中心ですが、親族編(民法第4編第725~881条)の定める家族関係や、財産法(民法第1~3編)も重要な関わりを持っており、これら私的な財産や人間関係の法秩序については、主として民法に規定されています。法学部では、これら身近で重要な法のあり方も大いに学んでください。

政治学とは何か1

河村先生 次に政治学についての質問に移りたいと思います。よろしくお願いします。

政治学は何のための学問ですか。木戸隆一郎さん(4年生)

西倉一喜先生(国際政治) 政治学が政治家にとって学んでほしい学問であることは間違いありませんが、政治家になるための学問といった意味で政治学が存在しているわけではありません。人が生きていくためにどうしても必要な、学ぶべきことのひとつが、政治学です。私たちの暮らしや未来は、「政治」というものに直接的に左右されることはいうまでもありません。「政治」に関する情報を分析する力が、そしてその「政治」を動かす力が、もし私たちになければ、私たちは主権者として役割をはたせないのです。政治学は「政治」ニュースを理解するために必要なのでしょうか。それにとどまるものではありません。世の中のあり方と自分の生き方を突き合わせる学問、これが政治学だと思います。良いことと思ってやってきたら、賛成してきたら、実はそれは全く違っていた。政治学的な認識が不足すると、そんな後悔する人生を送ることになるかもしれませんよ。

政治学と法律学、経済学など他の学問との関係はどうなっていますか。木戸さん

川端正久先生(アフリカ政治論) 政治学は1つの学問領域です。政治学の独自の対象と範囲は国家制度、政策過程、政治行動、選挙分析、政治組織、権力関係、政治思想、政治史、国際政治、比較政治などです。しかし現実の政治現象は政治以外の事項と関係しています。政策過程では、政策の対象や範囲は法律、経済、福祉、環境など多様な事項と関連していますので、政策について分析するためには、法律学、経済学、経営学など隣接学問を理解する必要があります。政治行動や選挙動向の分析では心理学、社会学、統計学などの知識や手法が取り入れられています。政治学は他の学問分野の考え方を積極的に取り入れています。政治を深く理解するためには、政治学以外のさまざまな学問分野の知識と手法を摂取しなければなりません。政治学は雑学ではありませんが、政治を理解するためにはあらゆる学問分野に対する関心と興味が重要です。政治学は法律学や経済学など他の学問分野と密接に関係しています。

木戸隆一郎さん(4年生)

政治学とは何か2

高校で身につけておくべきものは何かありますか。北さん

西倉先生 これは明快です。近現代史(日本史、世界史ともにです)の知識を身につけることが必要です。高校までの教科の学習では近現代史にほとんど時間を割きません。したがって、みなさん自身で努力してもらうしかありません。

どのような流れの先として現在の世界があるのか、現在起きていることの原因はどこにあるのか、こんな「問い」を持つことが政治学には欠かせません。最低限、何があったかを知っていなければ、つまり近現代史の知識がなければ、こんな「問い」を持つことすらできません。政治や行政に関する制度や仕組み知識は後からでも大丈夫。学問は字のごとく、「問うて学ぶ」ものですから。まずは「問い」を発するための基礎力を身につけましょう。

高校の政治・経済(現代社会)と大学の政治学はどこが違うのですか。坂口遥平さん(4年生)

川端先生 高校の政治・経済(現代社会)の基本的内容は現代政治の基本原理、日本国憲法と基本的人権、現代日本の政治、憲法の平和主義と国際政治、現代経済の特徴としくみ、日本の経済と社会問題、現代の世界経済と日本、地球規模での環境問題と南北問題などから構成されています。前半は政治と法律に関する内容です。政治の事項は現代政治の基本原理、現代日本の政治、国際政治です。高校の政治・経済では政治に関する最低限の知識の理解が求められます。大学における政治学はこれとは大きく違っています。政治学は1つの学問領域として政治現象を総合的・科学的に研究する学問です。政治学は政治学の方法、政治と国家、政治哲学、政治体系、政治過程、政党政治、選挙分析、政治体制、政治制度、政治思想、政治運動、行政学、地方自治、都市研究、公共政策、市民社会、日本政治、国際政治、国際機構、比較政治、政治史、平和研究など多様な専門分野を含んでいます。

坂口遥平さん(4年生)

政治学とは何か3

国内政治と国際政治はどこが違いますか。木戸さん

座談会

川端先生 国内社会と国際社会ではその構成が違っています。国内社会は多くの結社や団体、自治体などから構成されていますが、これらは政府の統治の下に一元化されています。国際社会は主権をもつ国家を主体として構成されています。また国内政治と国際政治では政治の行われる舞台が違っています。多様な組織・団体から編成されている国内政治の舞台では、一元的な政治権力のもとで制度と文化の統一性があります。制度と文化が異なる国家が並立している国際政治の舞台では、一元的な権力はありませんので、国家間に対立や紛争が発生しやすい状況があります。国際社会では、近年、国家以外の政治アクターが増加し、国家の比重が低下し、これが国内政治と国際政治の関係に影響を与えています。国連など国際機関、ヨーロッパ連合など超国家機構、国際的な非政府組織、多国籍企業など非国家的主体が政治アクターになっています。国内政治と国際政治の関係は多様化しています。

公務員になるためには、法律学と政治学のどちらの専攻が有利ですか。坂口さん

牛尾先生 公務員試験に有利というのでしたら、大きな差ではありませんが、ひょっとしたら法律学を専攻した方が有利かもしれません。良い公務員になるにはどちらが有利というのでしたら、政治学を専攻した方が有利と答えます。

行政をとりまく政治環境の分析、行政の施策の分析、さらには公務員としてのあり方論など、政治学の専攻科目の中には、公務員として活躍するために必要な能力を身につける上で役に立つ科目がたくさんあります。また単なる知識にとどまらず、そうした知識をいかなる方法で入手し、そしていかなる視点で分析するかを学ぶことができます。

主体性を持った公務員として活躍したいのなら、多くの課題を抱えている現代行政の改革に公務員として取り組みたいのなら、そのための力を政治学の研究から身につけてください。

ゼミナールについて

河村先生 それでは、大学での勉強全般について、何か質問はないでしょうか。

大学ではゼミナールというのがあると聞きましたが、どのような勉強をするものなのですか。
松本さん

河村先生 これは、今日来ていただいている先生方の中では、私を除いて、一番お若い畠山先生に答えてもらいましょうか。

畠山先生 大学の授業は、大きく「講義」と「ゼミナール(ゼミ、演習などと呼ぶ)」の2種類に分けられます。講義が、高校までの授業と同じように、基本的には先生の話を聞いて勉強するものであるのに対して、ゼミは、報告・対話・議論などを中心に少人数で行われるもので、一番大きな特徴は、とにかく「学生が主役」になる、ということです。まず、自分の興味のあるゼミを見つけるところから始まり、入ってからどんなことをテーマにするか、どういう方法で勉強を進めて行くか、など、すべて学生自身の選択にかかっています。また、そもそもゼミ自体をどういうものにするか、どうやって運営して行くか、どんなイベントを行うか、といったことも、学生の主体性によって決まります。例えば私のゼミでは、史跡見学・合宿などが、学生自身の企画・立案で行われています。大学生にとって一番大事な「主体性」を、こうしたことから学んで行くこともまたゼミの意義だと考えます。

河村先生 今日は、法律学とは何か、政治学とは何かということについて、学生のみなさんから率直に質問してもらいました。少しでも、法律学・政治学の奥の深さが分かってもらえたのかなあと思います。お集まりいただいた先生方、学生のみなさん、本当にありがとうございました。それでは、これでお開きとします。

座談会に登場した先生方はこちらです!

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