第二部 未決拘禁執行法要綱

第一章 総則
第二章 収容
第三章 共同生活
第四章 物品の貸与、私物の取得および使用等
第五章 保健衛生および医療
第六章 宗教
第七章 図書・情報へのアクセス等
第八章 外部交通
第九章 外国人未決被収容者に関する特別規定
第一〇章 高齢未決被収容者に関する特別規定
第一一章 法的援助
第一二章 苦情の申出
第一三章 不服の申立て
第一四章 懲罰
第一五章 救済の申立て
第一六章 付則



第一章 総則

第一 法律の目的
@この法律は、未決被収容者(被逮捕者・被勾留者・被勾引者等、裁判確定前に刑事施設に収容されている者をいう)について、その処遇の基準および処遇の方法に関する事項を適正に定めることを目的とする。
Aこの法律は、未決被収容者の基本的人権を保障し尊重するように、解釈・運用しなければならない。

第二 処遇の基本原則
@未決被収容者は、個人として尊重され、また、人間固有の尊厳を尊重して処遇されなければならない。
A未決被収容者は、いかなる場合にも、拷問または残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いを受けない。
B未決被収容者は、何人も、人種、国籍、思想、宗教、教育、性別、財産その他社会的地位により差別されてはならない。
Cこの法律その他命令の定めるところに従い、外国人、女性、少年、高齢者、病者および障害者の権利およびその特別の地位を擁護することのみを目的とする処遇は、差別とはみなされない。

(コメント)以上の基本原則は、既決被収容者の場合と未決被収容者の場合とで異なるところはない。なお、社会的弱者や少数者は、弱者・少数者であるがゆえに人権侵害を受けやすく、また実際に受けているという現実がある。したがってこれらの者を一律に扱うといった形式的な平等は、かえって弱者・少数者への差別を助長することになりやすい。これらの者に特別の保護を与えることは、実質的平等を実現する上で不可欠である。

第三 無罪の推定
@未決被収容者は、無罪の推定を受け、かつ、それにふさわしく処遇されなければならない。逮捕・勾留中の生活は、一般の生活状態およびその者の生活状態と、できる限り同じようにしなければならない。
A未決被収容者には、防禦権の行使を最大限に保障しなければならない。
B未決被収容者は、身柄拘束の理由とされた拘禁目的を達成するため必要な場合、または安全かつ円滑な施設内の共同生活に重大な障害をきたす場合を除いては、一般市民として有している権利を享受する。
C前項の拘禁目的を達成するために以下の各条項に基づいて行われる必要な権利の制限は、裁判官の命令によらなければならない。ただし、弁護人等との面会・信書の発受は、これを制限することができない。

(コメント)施設収容には、種々の権利・自由の制限が必然的に伴う。したがって、無罪の推定の原則を確認しておくことは、その制限が必要最小限度にとどまらなければならないことを明らかにするために必要である。無罪の推定を受ける者の施設内での生活は、その者の拘禁理由並びに施設の安全および施設における平穏な共同生活が必要とする制限に服する他は、一般の市民と同様の自由な生活が保障されなければならない。Bの「身柄拘束の理由とされた拘禁目的」とは、未決被収容者を拘束する根拠となった逮捕状または勾留状に記載された逮捕・勾留理由、即ち、逃亡のおそれまたは罪証隠滅のおそれの防止をいう。そして、身柄拘束は将来の公判の円滑な運用のために裁判官の発する令状に基づいて行われることからすれば、拘禁目的達成のために必要とされる権利制限も、具体的な根拠規定に基づく裁判官の個別的な命令により行われるべきである。Cは、そのような趣旨を規定するものである(ドイツ刑訴法一一九条六項参照)。そのような規定としては、例えば第八「居室等」があろう。
また、未決被収容者は、憲法および刑事訴訟法で種々の権利を保障されているが、施設における収容生活のさまざまの局面でその権利が制限されるおそれがあり、防禦権の行使に最大限の注意を払うように、最初に確認しておかなければならない。
未決被収容者についても、本人の請求によって一定の社会的援助が提供される必要があり、それに関する義務を施設側に負わせる規定をおくことが考慮されてよいであろう。選挙権の行使についても、施設側は、その行使の機会を保障するようにしなければならないことは、当然である。


第四 拘禁と捜査の分離原則
@刑事施設の職員は、刑事施設の外で行われた犯罪の捜査に関与し、またはそのための便宜を図ってはならない。
A刑事施設の職員は、いかなる理由であれ、未決被収容者の身辺を探るために、他の被収容者を他人と同居もしくは接触させてはならない。
B未決拘禁に関して作成される刑事施設の記録は、刑事施設の運営のためにのみ利用される。未決被収容者およびその代理人は、この記録を閲覧・謄写することができる。

(コメント)未決拘禁の執行業務と捜査業務が分離されることの必要性はさしあたり承認されており(留置施設法案五条六項、日弁連案二二二条)、それを徹底する趣旨から、施設外の犯罪捜査への施設職員の関与・便宜供与を禁止する条項をおく意味は少なくない。特に弊害の大きい同房者によるスパイ活動の違法性を明らかにすることは不可欠である。このような立法例として、ドイツ拘留執行令九条。Bも、拘禁と捜査の分離の趣旨になるものである(吉岡・刑法雑誌三三巻三号一五一頁参照)。

第五 自治活動および集団討議の場の保障
――既決被収容者に関する規定と同じ。

(コメント)被収容者自治は、未決被収容者においても認められてしかるべきである。もっとも、未決拘禁の場合、施設に収容されている期間が既決被収容者に比べて短いことが多い点、その者の拘禁目的の達成との関係等の点で、既決被収容者の場合とはやや異なった形態をとらざるをえないであろう。

第六 共通の生活時限
刑事施設の長は、食事、入浴、運動その他施設における共通の生活時限を定め、これを未決被収容者に告知しなければならない。

(コメント)法案一〇七条は、施設における起居動作の時限に従うことを未決被収容者に義務づけ、これに従わない場合には、懲罰事由(法案一三五条五号または六号)に該当する可能性があるが、これは未決被収容者の無罪の推定を受ける地位に矛盾する。研究会案は、施設における共通の生活時限に従うか否かを、未決被収容者の自由意思に委ねるものである。もっとも、施設には、未決被収容者の指定する時間に食事等を提供する義務はない。

第七 未決被収容者の分離
@未決被収容者は、既決被収容者から分離して収容しなければならない。
A男性と女性、少年と成人は、分離しなければならない。女性および少年の保護の上で支障がない場合は、これらの者が相互に接触する機会を与えられる。

(コメント)法案は、少年と成人の分離を規定していないが、少年の保護という観点からは、両者は分離すべきである(少年法四九条三項参照)。男性と女性も原則として分離しなければならないことも、女性の保護の上からは当然である。もっとも、女性・少年の保護のうえで支障がない場合には、施設内の生活をできる限り一般社会に近づけるという意味で、その例外を設けてもよいのではなかろうか。

第八 居室等
@未決被収容者は、夜間、個室に収容する。ただし、処遇上相当と認められ、かつ、その者が希望するときは、共同室に収容することができる。
A未決被収容者は、その者の拘禁目的に重大な支障のない限り、就寝時間外は娯楽室および図書室を自由に使用することができる。

(コメント)法案一〇八条は昼夜独居を原則としているが、これは社会化という観点から批判されなければならない。むしろ、夜間独居を原則とし、就寝時間外は、娯楽室、図書室等を自由に使用することを認め、「その者の拘禁目的への重大な支障」がない限りそこで他の未決被収容者と自由に交際できる機会を与えるべきであろう。「その者の拘禁目的への重大な支障」は、第三「無罪の推定」Bにより、身柄拘束の理由に基づいて、裁判官が個別的に判断すべきである。

第九 居室の調度、個人的所持品
@未決被収容者は、自己の居室を適切な範囲において私物で調度することができる。
A居室の見通しを妨げてその他施設の安全または秩序を危うくする物は、これを除去することができる。未決被収容者がその弁護のために必要とする書籍、書類等は、これをその者に委ねるものとする。

(コメント)法案は、被勾留者が居室を私物で調度する権利を認めていない(なお、法案一四条二項)が、保安上支障がなければ、これを認めるべきであろう。のみならず、法案には、被勾留者の防禦活動を不当に制限するおそれのある規定もある(法案三三条三号、三五条参照)。未決被収容者がその防禦のために必要とする書類、書籍等は、居室において所持することを保障しなければならない。

第一〇 自己の収支に基づく労働
未決被収容者は、施設における安全かつ円滑な共同生活が明らかに妨げられない限り、自己の収支において作業を行うことができる。

(コメント)法案一〇八条四項は、被勾留者の自己の収支に基づく労働の権利を認めず、僅かに「法務省令で定めるところにより、被勾留者が居室で行う自己労作につき援助を与えることができる」と規定するに過ぎない。研究会案は、未決被収容者に労働の機会を保障したものである。したがって、ここで保障されている労働は、居室内における作業には限定されない。

第二章 収容

第一一 通知
@未決被収容者は、自己が収容された事実を、ただちに、家族に通知することを許されなければならない。
A未決被収容者が外国人である場合には、その者が所属する国または国際法により通知を受ける権限を有する国の領事館または大使館と、適切な方法で通信する権利を、すみやかに告知されなければならない。

(コメント)刑訴法七九条および二〇七条一項は、勾留した旨を被勾留者の家族等に通知する義務を裁判所(裁判官)に負わせている。しかし、被勾留者が通知する権利を認めていないし、法案も同様である。研究会案は、未決被収容者に家族への通知権を保障しようとするものである。未決被収容者が外国人である場合は、さらに、その者が所属する国の領事館または大使館と連絡する権利を保障することも重要である。

第一二 収容の手続
@収容手続の間、他の未決被収容者は立ち会ってはならない。
A刑事施設の長は、未決被収容者に対し、その刑事施設における収容のはじめに、未決被収容者の権利義務に関する事項その他施設において生活するために必要な事項を告知しなければならない。
Bこの告知は、文書を一部交付することにより行い、未決被収容者の権利義務その他重要な事項については、さらに口頭でも告知する。
C未決被収容者には、本法の写しを一部交付する。

(コメント)法案一〇条の告知事項は未決・既決を区別せず、刑事訴訟法で保障された被勾留者の権利の告知を欠き、また告知の方法も、被勾留者に対する配慮を欠いている。研究会案は、この点を改善しようとするものである。告知されるべき内容としては、作業・仮釈放に関するものを除き、第一部第九「入所時の措置」@に掲げられたものが、当てはまるであろう。

第一三 収容時の鑑識措置等
@刑事施設の長その他刑事施設の職員は、未決被収容者につき、その刑事施設における収容のはじめに、その者の識別に必要な限度で、社会の撮影、指紋の採取を行うことができる。その後必要が生じたときも同様とする。
A右の措置を実施された者は、逮捕・勾留の執行から釈放された後、収集された当該措置に関する資料を廃棄することを請求することができる。ただし、逮捕・勾留に直接引き続いて他の逮捕・勾留または自由刑の執行が行われるときは、この限りでない。未決被収容者には、遅くとも釈放の際にこの権利に関して告知しなければならない。
B未決被収容者は、収容後ただちに医師による診察を受けるものとする。

(コメント)法案一一条は、写真の撮影、指紋の採取以外の鑑識措置を、法務省令に基づいて認めるものであるが、研究会案は、識別のための鑑識措置としては、写真の撮影および指紋の採取のみを許容する。また、研究会案は、未決被収容者のプライバシーの保護という観点から、原則として、鑑識資料の廃棄を請求する権利を未決被収容者に認めるものである。

第三章 共同生活

第一四 共同生活の責務
第一五 共同生活規則
――以上は、既決被収容者に関する規定と同じ。

(コメント)未決被収容者に関しては、現行法を前提とする限り、安全かつ円滑な共同生活上のルールを遵守するということを前提とする点では、既決被収容者に関する規定と同様となろう。規則を作るにあたっては、未決拘禁の場合も、未決被収容者の意見が何らかの形で反映される必要がある。ただ、未決被収容者は流動性が高いので、意見を聴取する方法は、少し違った形にならざるをえないだろう。

第四章 物品の貸与、私物の取得および使用等

第一六 物品の貸与等の原則
第一七 衣類および寝具
第一八 食事および飲料
第一九 私物の取得および使用等
第二〇 金銭の管理
第二一 未決被収容者間の物品の授受・貸借
――以上は、既決被収容者の物品の授受・貸借

(コメント)「賃金」の扱いを除く他、既決被収容者に関する規定と同じ。特に私物の取得・使用は、未決被収容者の無罪の推定を受ける地位からも、可能な限り自由とされなければならない。

第五章 保健衛生および医療

第二二 保健衛生および医療の原則
第二三 施設医
第二四 運動
第二五 施設内の清潔保持
第二六 入浴
第二七 調髪およびひげそり
第二八 健康診断
第二九 伝染病予防上の措置等
第三〇 診療
第三一 入院その他診療上の特別措置
第三二 医療上の特別措置
第三三 出産
第三四 子の養育
第三五 養護のための特別措置
第三六 精神病者のための特別措置
第三七 保健衛生または医療に関するカウンセリング
――以上は、既決被収容者に関する規定に同じ。

(コメント)自由刑の純化という観点から既決被収容者に保護されるべき健康に生活する権利と同様の権利は、無罪の推定を受ける地位にある未決被収容者にも、当然に保障されることとなる。

第六章 宗教

第三八 宗教の自由
――既決被収容者に関する規定と同じ。

(コメント)信教の自由は人の内心に関する憲法上の権利であるから、未決被収容者に対しても十分な保障が必要である。その者の拘禁目的に重大な支障をもたらす場合でも、その制限は裁判官の命令による必要最小限のものに限られねばならないであろう。少なくとも、法案三〇条但書、三一条二項のような広い制限は望ましくない。

第七章 図書・情報へのアクセス等

第三九 書籍等閲覧の原則
第四〇 図書室の設置・充実義務
第四一 図書館司書の常置等
第四二 視聴覚設備・備品の充実
第四三 時事の報道に接する機会の保障
――既決被収容者に関する規定と同じ。

(コメント)以上の諸権利は、未決被収容者の知る権利・幸福追求権からのみならず、 防禦権の行使の上でも重要な意味がある。そのために必要な立法全書や法律書の必要的備えつけ、自由閲覧、居室における所持を特に保障する規定をおくことも必要であろう。

第八章 外部交通

第四四 外部交通の一般原則
@未決被収容者については、この章の規定による他、その面会および信書の発受を差し止め、または制限することができない。ただし、他の法令に特別の定めがある場合は、この限りでない。
A未決被収容者の外部交通については、未決被収容者がその意思を疎通するのに最も適した言語を用いることができる。
B面会者は、面会の実効性を確保するため、通訳人を同行し、または必要な機材を携帯することができる。

(コメント)未決被収容者の外部交通は、その人間の尊厳の確保という点からはもとより、防禦権の保障という点からもきわめて重要な意味をもつ。したがって、その権利性が明らかにされる必要がある。面会および信書は未決被収容者の重要なコミュニケーション手段であるから、未決被収容者の意思疎通にとって最も適切な言語を用いうる、即ち外国語等による自由な外部交通が認められなければならない。「言語」には、点字・手話等も含まれる。これとの関係で、面会の実効性を確保する補助的手段(手話を含む通訳人、録音機・写真機・点訳機等)の利用を権利化することも、必要である(日弁連案一四一条五、六項参照)。

第四五 弁護人等との面会
未決被収容者と弁護人等との面会については、刑事訴訟法三九条の定めるところによる。

(コメント)法案一一〇条によれば、結局、執務時間の面会が原則で、執務時間外の面会は拒絶され、それに対して、準抗告の申立ても認められない、という運用に陥るおそれが強い。研究会案は、執務時間内の面会を原則と考えるものではない。また、弁護人等については、「刑事施設の管理運営」を理由とする面会制限も、なされるべきではない。
なお、研究会案は接見指定を予定したものではないが、刑訴法三九条三項が現行のままでは三項による接近指定の余地が残り、「自由な弁護人接見」という趣旨とどうみても合致しないように思われる。当面は同項の限定解釈によらざるをえないが、やはりその改廃を検討すべきであろう。

第四六 弁護人以外の者との面会
@未決被収容者は、刑事訴訟法八一条、二〇七条一項の規定により接見を禁じられていない限り、弁護人以外の者と面会することができる。
A刑事施設の長は、二二時から翌朝の六時までに本条の面会の申出があった場合、施設の物理的条件および職員の勤務体制上やむをえない場合に限り、これを制限することができる。

(コメント)弁護人等以外の者との面会は、刑訴法八一条による裁判官の命令がない限り制限できないのが本来である。もっとも、職員の勤務体制や面会室の円滑な活用のための制限は弁護人以外の者にはありうるであろう。施設が制限できるのはもっぱら戒護上の理由による、というのが研究会案の基本的な考え方である。
ところでAの場合を除けば、面会を制限する権限は、裁判官のみが有する(本条@)。しかし、重要ないし急を要する要件を処理する必要があるにもかかわらず、接見禁止が解除されることはごく稀だといわれる。面会によらなければ処理できないような用件がある場合、裁判官は、接見禁止を一時的に解除して面会させるべきである。


第四七 面会の場所
――既決被収容者に関する規定と同じ。

第四八 面会の監視
@未決被収容者の面会にあたっては、弁護人等との面会の場合を除いて、刑事施設の職員が面会室の外部においてこれを監視することができる。
A相手方が、国または地方公共団体の機関の権限に属する職務を行う職員、および弁護士法三条一項に規定する職務を行う弁護士であるときは、監視を行ってはならない。

第四九 面会の一時停止および終了
@面会の監視にあたる刑事施設の職員は、未決被収容者もしくは面会の相手方が刑事施設の安全を害する行為をする場合には、その行為を制止し、またはその面会を一時停止させることができる。
A刑事施設の長は、面会が一時停止された場合において、面会を継続することが相当でないと認めるときは、その面会を終わらせることができる。

第五〇 弁護人等との信書の発受
未決被収容者と、弁護人等、裁判所・刑事施設委員会その他の国または地方公共団体の機関および弁護士会、または弁護士法三条一項に定める職務を行う弁護士との信書の発受については、内容の検査を行うことは許されず、発信人および受信人を確認するために必要な限度において検査することができる。

第五一 弁護人以外の者との信書の発受
@未決被収容者は、刑事訴訟法八一条、二〇七条一項により書類その他の物の授受の禁止または検閲の処分を受けていない限り、制限なしに弁護人等以外の者と信書を発受することができる。
A刑事施設の長は、禁制品が同封されていると疑うにたりる相当な理由があるときに限り、未決被収容者の立会いの下で信書を開披することができる。ただし、信書の内容を検査してはならない。
B刑事施設の長は、この措置により禁制品を発見したときは、これを差し止めることができる。

第五二 信書
@未決被収容者は、自己の便箋および封筒を使用することができる。郵送料は、未決被収容者がこれを負担する。その者が負担することができないときには、全部または一時的もしくは部分的に、筆記用具および郵送料を施設に請求することができる。
A未決被収容者は、点字または外国語による信書を発信し、または受け取ることができる。

(コメント)法案一一三条は、信書の作成・発受の方法についての制限を予定し、法案一一四条、一一五条は、信書の内容的検査・差止めを認めている。しかし、自由な外部交通の重要性と防禦権の充分な保障という点では問題がある。信書の発受の権利性と、その制限は裁判官の命令によるべきことが、明確にされておく必要がある。なお、面会・通信の当事者双方が日本語に通じている場合でも、外国語等によるコミュニケーションは認められてよい。弁護人との間で交わされる信書については、内容検査のような措置を認めるべきではない。被勾留者と弁護人以外の者との間で発受される信書についても、禁制品の有無の検査に限るべきであろう。もっとも、このような考え方に対しては、そうすると、刑事訴訟法の規定により信書の発受が全面的に禁止される傾向が生じるのではないか、との疑問が提起されている。

第五三 電話および電報
未決被収容者は、電話、電報を使用して、施設外の者と通信をすることができる。電話については面会に関する規定を、電報については信書に関する規定を準用する。

(コメント)法案は電話、電報の利用に関する規定を置かないが、これらの通信手段が迅速で、社会で広く普及していることからすれば、このような通信手段を認めるべきである(日弁連案一四五条)。なお、ファックスの利用も、信書による通信と同視することができるであろう。

第五四 取調べ
@未決拘禁中の取調べは、特別の定めがない限り、弁護人等以外の者との面会に関する規定を適用する。
A第四六Aの規定にかかわらず、刑事施設の長は、一七時から翌朝九時までの間の取調べを許してはならない。
B未決被収容者は、取調べに弁護人の立会いを求めた場合、刑事施設の長はこれを妨げてはならない。
C取調べが行われた場合、刑事施設の長は、その日時、場所、取調官および立会人の氏名、その他必要な事項を記録する。未決被収容者およびその弁護士は、この記録を閲覧・謄写することができる。

(コメント)被疑者、被告人には、捜査機関の取調べを受忍する義務はない。また、未決拘禁制度は、取調べを目的とする制度ではなく、逃走および罪証隠滅のおそれを防止するために認められるものにすぎないから、刑事施設には、捜査機関の取調べに協力する義務はない。捜査機関は、刑事施設にとっては外部のものなのである。そこで、取調べを外部交通(弁護人以外の者との面会)と位置づけ、拘禁後の取調べは、弁護人等以外の者との面会の規定に従うことを明確にする。もっとも、取調べが「外部交通」であってもそれは本来の面会とはやはり異なる性格をもつ。それゆえ、取調べは執務時間を原則とすること(ただ、たとえば被疑者が希望する場合は、例外的に夜間取調べが認められる場合もあろう)、弁護人の立会権を明確にした。また、取調べ記録の制度化による可視化を図ることも必要であろう。
取調べ拒否に対する不利益取扱いの禁止規定をおくことは、現状から見て大きな意味をもつことは確かである(三井・刑法雑誌三二巻三号四六二頁、後藤・法セ四四六号一〇二頁)。もっとも、一般原則規定(第二)でたりるという考えもできる。取調べ目的の身柄拘束の禁止規定をおくことも考えられるが、これはむしろ本来は刑事訴訟法に規定すべき事柄であろう。

第九章 外国人未決被収容者に関する特別規定

第五五 領事機関等に対する通報
第五六 一般的な差別禁止
第五七 通訳
第五八 弁護人との面会の通訳
第五九 外国語による外部交通の特則
第六〇 外部との接触
第六一 食事
第六二 宗教
――以上は、既決被収容者に関する規定と同じ。

(コメント)以上は既決被収容者に関する規定を準用する。一般原則と重複するが、外国人の権利保護規定は特に必要であろう。

第一〇章 高齢未決被収容者に関する特別規定

第六三 施設設備
第六四 衣類および寝具の貸与
第六五 食事
第六六 住環境
第六七 健康診断
――以上は、既決被収容者に関する規定と同じ。

(コメント)既決被収容者と同様、外国人および高齢の未決被収容者に対する特別の規定を整備する。この中には、他の部分ですでに触れられている部分と重複するものも少なくない。だが、対象者が不利益を受けやすい立場にあること、あるいはそもそも特別な配慮の必要な者であることを考慮すれば、重複をいとわず二重の権利保障をしておく意味もなおあるであろう。

第一一章 法的援助

第六八 法的援助を受ける権利
第六九 法律相談室の設置
――以上は、既決被収容者に関する規定と同じ。

第一二章 苦情の申出

第七〇 苦情取扱委員会への苦情の申出
第七一 刑事施設の長に対する苦情の申出
第七二 中央刑事施設委員会の委員に対する苦情の申出
第七三 その他の事項
――以上は、既決被収容者に関する規定と同じ。

第一三章 不服の申立て

第七四 不服の申立て
第七五 情報提供および申立て方法
第七六 共同不服申立て
第七七 委任
第七八 不服審査会の審理
第七九 執行停止
第八〇 裁決
第八一 行政訴訟との関係
第八二 不利益な取扱いの禁止
――以上は、既決被収容者に関する規定と同じ。なお、未決被収容者については、苦情の申出・不服の申立てとは別に、裁判所への救済の申立てを規定する(第一五章「救済の申立て」)。

第一四章 懲罰
 
[A案]
懲罰に関する規定をおかない。

[B案]
第八三 懲罰の要件
既決被収容者に関する規定と同じ。

第八四 懲罰の種類
懲罰の種類は、戒告とする。ただし、未決被収容者に対して職務上の指示を行えばたりる場合には、懲戒処分を行わないものとする。

第八五 懲罰決定の一般原則
第八六 懲罰手続
――以上は、既決被収容者に関する規定と同じ。ただし、執行停止と免除の規定はおかない。

(コメント)法案一三五条の懲罰事由は広範に過ぎ、かつ、要件が曖昧なものが多い。また、法案一三六条一項の用意している懲罰の種類は、未決被収容者の無罪の推定を受ける地位という観点からみると、問題がある。研究会試案は、施設の安全と施設における平穏な共同生活を確保するための手段として懲罰を位置づける観点から懲罰事由を最低限度に留め、かつ、懲罰の種類も戒告に限った。それ以外の懲罰は、未決被収容者の防禦権の行使を妨げる作用が伴いがちだからである。
研究会案B案及び日弁連案一七七条も、ほぼこのような見地に立つものである。すなわち、施設内での安全かつ円滑な共同生活に重大な障害をもたらす行為が現に行われ、将来繰り返される恐れがある以上、その防止のために一定の不利益を当該未決被収容者に課すこともいたし方ない。また、戒告は懲罰としては軽微で、その内容からみて防御権行使への障害はごく軽いと思われること、をその理由とする。
これに対して、次のような意見が示された。すなわち、たとえ戒告を課す場合であっても、反則行為の存在を争うようなときには、懲罰手続に付せられることが大きな負担となり、訴訟準備、防禦権の十分な保障に重大な支障が生じるおそれもある。そして、唯一の懲罰とされた戒告は、その内容には職務上の指示と実質的な差異がなく、ただ正式の手続を付することによって、感銘力を若干高めようとしたものに過ぎない。更にまた、未決被収容者の収容は、本来短期であるはずで、既決被収容者に比べて、事後的な措置を越えて事前に危険を防ぐ措置をとる必要は類型的に低い。違反に対しては、基本的には職務上の指示によって対処し、共同生活に重大な支障をもたらす危険が現に存在し、かつ、指示では不十分な場合には、制止や保護房への収容等の措置によって対処すればよく、戒告も懲罰として残しておくべきではない、というものである。A案はこのような見地から、未決拘禁における懲罰を課さないとするものである。
しかし、このような懲罰を置かない考えに対しては、結論があまりにラディカルであること等から異論もあり、意見の一致は見られなかった。
なお、日弁連案一七五条三項は、代用刑事施設では懲罰を課すことができない旨を規定しているが、収容場所の如何によって懲罰制度があったりなかったりすることは適当とはいえない。研究会案では、代用刑事施設でも、刑事施設の長の指示に従って刑事施設の職員が事務を行うのであるから、刑事施設に収容されている者と同様に扱っても大きな支障があるとは思われない。そのため、懲罰制度をおく場合でも、日弁連案のような除外規定を設けることはしなかった。

第一五章 救済の申立て

第八七 裁判所への救済申立て
@未決被収容者は、本法に規定する裁判官の命令に対しては、刑事訴訟法四二九条を適用または準用して不服を申し立てることができる。
A未決被収容者は、本法に規定する刑事施設の長の処分に対しては、刑事訴訟法四二九条以下(準抗告)の規定を適用する。

(コメント)現行法(法案および日弁連案も同様)は、未決拘禁に対する裁判官のコントロールを予定していない。しかし、未決拘禁は、円滑な裁判運営のため、かつ裁判官(裁判所)の命令により行われるのであるから、裁判官(裁判所)による統制は不可欠である。拘禁目的の実現のための権利制限が裁判官の命令によらなければできないとすれば(第三「無罪の推定」C)、やはり準抗告のような制度が整備される必要がある。面会のように急を要するものもある。そこで、刑事施設の処分について、準抗告を用いて裁判所に不服申立てをする途を開くことが必要である。

第一六章 付則
 
(コメント)警察留置場を刑事施設に代用することは認めないこととし、現行の代用監獄の廃止と、それまでの経過措置を「付則」に規定する。

第八八 代用刑事施設の廃止に関する経過措置
@警視庁もしくは道府県警察本部または警察署に付属する留置場で、法務大臣が定める基準に適合し、かつ、その指定したものに限って、この法律施行後三年を限度として、逮捕または勾留されている者の収容のため刑事施設に代えて用いることができる。
A前項により刑事施設に代えて用いる留置場(以下、「代用刑事施設」という)には、逮捕、勾留された者のうち、次の各号に定める者を収容することはできない。
一 少年
二 女性
三 外国人
四 満六五歳以上の者
五 弁護人が選任されていない者
六 未決被収容者につき公訴の提起があった者
七 死刑、無期の懲役または無期の禁固にあたる罪を被疑事実として、逮捕または勾留されている者
八 被疑事実の全部または一部を否認し、争い、または黙秘している者
B代用刑事施設に収容された未決被収容者については、この法律を適用する。
C代用刑事施設には刑事施設の職員を派遣して、その事務を行わせる。派遣職員は、法務大臣の指定する刑事施設の長の指示に従う。

(コメント)廃止までの年限が短ければ短いほどよいことは間違いないので、三年は最長期間である。代用収容のもつ問題性からすれば、収容力の問題は、基本的に弁明にならない。収容できるように努力させる以外にはないし、現実には、それほど不足しているわけでもないと思われる。その資料は、法務当局に提出させればよい。
本条で、少々廃止までの期間が長くても、問題になりそうなケースは、刑事施設に収容されることになるであろう。また、BおよびCで、廃止までの代用があくまでも施設上の便宜のためという趣旨も明らかになる。
八について、「黙秘・否認」は要件が必ずしも明確でなく、また、代用監獄への収容があたかも取調べ目的であることを前提としている感がないわけではない。しかし、このような場合に代用監獄への収容を許さない必要性が高いことも事実である。日弁連案二二〇条一項二号は、非本質的部分に関する否認・黙秘の場合には代用監獄収容を認めるが、要件として不明確といわざるをえない。なお、研究会案では、弁護人がある場合にのみ代用監獄への収容を認めるのであるから、移監請求を活用することが期待される。
また、被収容者において特別な配慮がなされるべき者については、未決拘禁についても配慮が必要というべきであり、代用監獄への収容は避けるべきである。このような配慮が逆差別でないことは、いうまでもない(第二「処遇の基本原則」C)。そのような未決被収容者の典型としては、女性、少年、外国人、高齢者(さしあたり六五歳以上とする)、が考えられる。日弁連案二二〇条一項四号は、「女子のみを収容する施設」である場合、女性の代用監獄収容を認める。しかし、特別の配慮を要する未決被収容者を代用監獄におくこと自体が本質的な問題なのであるから、このような例外は不必要であろう。
なお、被逮捕者の引致場所が警察署である場合、被逮捕者はすみやかに裁判官の下に引致され、釈放または刑事施設に勾留されることを前提に、その者を処遇する。したがって、留置施設法案のような法律は不要である。もっとも、引致場所にそのまま留置される場合にも代用刑事施設への収容であるから、この法律を適用するとともに、被逮捕者であるが故に特に保障されなければならない事項についても手当てしていかなければならない。