大学院で政治学を学ぼうと考えている方へ(主に龍谷大学学部生向け)
[2023年度・龍谷大学大学院アジア・アフリカ総合研究プログラムのパンフレット用写真より]
1.はじめに
私は龍谷大学大学院法学研究科で「中東政治論研究」「比較政治論研究」「国家・民族論研究」などを担当しています。
アジア・アフリカ総合研究プログラムではチェーンレクチャー形式で「アジア・アフリカ総合研究特別演習」も担当しています。
浜中研究室では中東政治の諸問題を比較政治学のアプローチで研究したい大学院生を受け容れることができます。
2.通常の指導方針(修士課程修了後に就職する場合)
出願時に「政治学コース」か「アジア・アフリカ総合研究プログラム」のどちらかを選んでもらうことになります。
過去には「地域公共人材総合研究プログラム」の方も居ました(こちらは後述)。
「政治学コース」は法学研究科内部の選択コースで、当研究科に属する政治学系教員のコースワーク(大学院講義)を主に履修することになります。
「アジア・アフリカ総合研究プログラム」とは経済学研究科、国際学研究科と合同でアジア・アフリカの地域研究に特化した学際的プログラムです。
学生の多くは留学生であり、国際色豊かな環境下で研究活動を進めることになります。
「アジア・アフリカ総合研究プログラム」の特徴は、所属生だけに給付されるフィールドワーク調査費補助の制度(上限20万円)があることです。
これを利用してアジア・アフリカ地域へのフィールドワークを行う院生が毎年います。年間9名の採用枠が用意されています。
私が紹介できるフィールドワーク先の拠点は中東諸国にあります。
具体的にはヘブライ大学トルーマン研究所(イスラエル)、JaCMES中東研究日本センター(レバノン)、日本学術振興会カイロ研究連絡センター(エジプト)を挙げることができます。
研究テーマをよく練った上で上記の研究拠点を訪れ、訪問する機関や人々を紹介してもらうのが良いでしょう。
いずれの拠点にも日本人もしくは日本語の堪能なスタッフがいるので、気楽に研究相談をすることができます。
しかしその先には日本語を解さない世界が広がっています。最低限の語学力は身に付けておいて下さい。本学では、英仏独中語だとアウトプットを重視した授業も提供されています。
英文ジャーナル論文を読めるようになるには学部生のうちに「政治文献講読」を履修するのが手っ取り早いです。
語学力に自信が無い場合は、学部生のうちに「法政応用英語」「上級英語」などを履修して大学院での講義・演習に備えましょう。
中東政治をテーマに選ぶ場合は、多少無理をしてでも教養教育科目・選択外国語「アラビア語」「ペルシア語」「トルコ語」のいずれかを履修して下さい。
(龍谷大学は選択外国語のバリエーションが多く、仏独中露西語の他にコリア語、ポルトガル語、古典ギリシア語、ラテン語を提供しています。)
修士課程ではできる限り2年間で修士論文を執筆してもらいます。事情によっては在学延長を認めることがあります。長期履修制度の利用を勧めることもあります。
本学の場合、修士課程で大学院を終えて官公庁や民間企業に就職するケースが多数なので、浜中研究室では統計分析手法や英語力といったスキルの習熟に力を入れます。
法学研究科ではチーム・ティーチングとして政治学系教員全員が集まり、修士2回生の修士論文中間報告会を複数回行います。ここで様々な指導が行われます。
学部から上がって「地域公共人材総合研究プログラム」に属する場合、地方公務員やNPOなどのプログラムが想定する卒業後の進路を希望していることが望ましいです。
こちらに属する場合は、日本国内の投票行動や世論と外交、比較政治文化といったテーマであっても方法論を中心に指導することがありえます。
浜中研究室では大学院生の国内・国際学会報告を推奨しています。国内・国際学会での報告を希望する場合、私の研究費から参加費や出張費などの補助を出すことがあります。
2022年に共著論文を書いた学生(学部生)を日本国際政治学会(仙台)に出張させました。2025年は在籍する院生のひとりがInternational Political Science Associationで報告します。
こうしたことは理工系の研究科では当たり前の慣習ですが、人文社会系の研究科ではあまりなじみがありません。「院生の研究活動は研究室の業績」だと私は考えているので、院生の国内・国際学会報告を推奨・支援します。
3.研究者養成の指導方針(博士後期課程に進学して学位取得を目指す場合)
研究者を志望される場合は原則として、(1)大学教員輩出の実績が十分にある他大学への進学を推奨するか、(2)博士課程から海外の大学院に進学する指導を修士課程で行うことになります。
ただし(1)のケースは進学先であまり教員に指導してもらえずに放置されたり、他の院生の意欲や能力に圧倒されて志を失う可能性もあります(その程度の志なら、はじめから進学せずに就職した方がいいです)。
(2)のケースでは「普通の指導方針」と重複するので、先にそちらを読んで下さい。
近年では、研究者養成で実績のある大学院の入試倍率が下がっており、かなり入学しやすくなっています。
また、そういった大学院の中には、必ずしも研究者養成を充分できていないところもあります。
加えて私が専門とする中東現代政治の分野では、国立・私立の有力大学で世代交代が進んでおり、次世代養成で定評のあった教員が次々と退職しています。
にもかかわらず、後任補充がされなかったり、他の分野に振り代えられてたりしています。
従って、中東諸国の選挙や世論を介した政治過程、つまり浜中の専門分野についての研究を強く希望される場合は、共同研究者を受け入れたものとして指導します。
その上で博士後期課程に進んで研究者を目指す場合、国際学会での報告やディスカッションに対応できるよう、語学力や統計分析スキルを向上させるための非常に過酷な指導をします。
学部時代に選択外国語「アラビア語」「ペルシア語」「トルコ語」を履修しなかった場合は、いずれか1つを修士1年で必ず履修して下さい。履修しない場合は指導を拒否します。
(ヘブライ語の場合は私がプライベートレッスンをすることもあります。)
これからの政治学者は現役の世代よりも国際競争力が必要になってくると予想しています。ポリサイの分野はそれが顕著です。
指導を受けようと思っている教員にどれほど国際競争力があるかを簡便に知るにはScopusの著者プロファイルかWeb of
Scienceの研究者検索を使えば分かります。
検索して何も出てこなければ、その人に国際競争力はありません。ここでいう国際競争力とは世界中の研究者がアクセスする英文ジャーナルに論文を掲載する力があることをいいます。
現時点では政治学・国際関係論分野において、大学教員の輩出実績がある有名大学の大学院でも、国際競争力を全く持たない教員が多数派だと思われます。もし弊学の学生で他大学の大学院に行くつもりなら、指導教員候補者の国際競争力を調べておきましょう。
ただ、下位分野によっては国際競争力があまり意味を持たないこともあります。日本国内で一般読者や実務家(政治家や上級公務員、企業経営者など)に成果を出すことが重視される分野だと国際競争力は求められないでしょう。
一言で言うと、専門的な訓練を受けていなくても読めるような日本語の図書や日本語論文を主な成果とする分野です。この場合、上記の国際競争力うんぬんは関係なくなります。
浜中研究室で博士学位の取得を目指す場合、修士課程の時期から国内学会・国際学会報告と日本語論文の学会誌投稿、英語論文の国際誌投稿が行えるよう指導します。
修士課程2年の段階で国内学会誌や国際誌にアクセプトされていれば、日本学術振興会特別研究員(DC)に採用される可能性は非常に高くなると思われます。学会報告の経験だけでもDCに採用されるチャンスは高くはなるでしょう。
博士課程3年の間に複数の国際誌掲載論文を持つことは、日本学術振興会特別研究員(PD)に採用される条件になりつつあります。社会科学系の採用者リストを見ると院生でも国際誌掲載論文を持つ事が多い分野(経済学や心理学)に有利だと分かります。
龍谷大学の学部から内部進学する場合、他大学の大学院事情について不案内なせいもあり「自分が研究者に向いているかどうか分からない」ことがあると思います。
私は国内外の学会・国際会議等には頻繁に出ていることもあり、大学院生の実力をかなり正確に見極めることができると思っています。
研究者になるために博士課程進学というビジョンを持っている学生は学部生のうちに、私に話をしに来て下さい。
研究者志望の院生には、私が運営しているさまざまなプロジェクトの研究協力者になってもらうかもしれません。研究に専念できるような経済的環境を整えられるよう助力します(可能な限りアルバイトをしなくて済むように努力します)。
私がその時に大型の科研費等のファンドを持っていればRAに採用することがあります。院生本人が日本学術振興会特別研究員(DC, PD)に採用されるように申請書作成の指導を必ず行います。
法学研究科には博士課程が設置されているので、本学で博士学位の取得を目指すことは可能です。現地語に習熟できるよう、修士課程か博士課程の途中で最低1年間、現地への留学を義務づけます(紛争中の場合はやむを得ませんが)。
中東政治の計量分析を教育研究できる機関は日本国内だと浜中研究室のほかに、宇都宮大学・松尾昌樹研究室や九州大学・山尾大研究室、立命館大学・末近浩太研究室があります。
なお、中東地域を対象にしたMacro Large-Nの計量分析をやる場合は松尾研究室が、計量テキスト分析をやる場合は山尾研究室の方が、地域研究を強く意識した大衆の国家観・国家像の研究は末近研究室の方が、浜中研究室より向いています。
ただし中東政治の計量分析を体系的にトレーニングするコースワークについては、浜中研に一日の長があると自負しています。
浜中研究室では博士後期課程の院生が国際競争力を持てるように最大限の努力をします。
4.進学準備について
龍谷大学の法学部生(または共通コースに属する他学部生)である場合、内部進学制度を使うことができます。
他大学から進学される場合は、大学院入学試験(院試)を受けて合格しなければなりません。
本学大学院の授業料は国立大学よりも安く、さらに学内の各種奨学金も充実しています。返済不要のものもあるので、教務課などに問い合わせてみて下さい。